なぜ「あん摩マッサージ指圧は揉むだけ」にされやすいのか
明文化されない職能は消される
![]()
結論から言えば、「もともと出来ること」であっても、制度上きちんと明文化されていなければ、やがて出来ないものとして扱われるようになります。
これは単なる感覚論ではありません。制度の世界では、書かれていることが強く、書かれていないことは弱い。たとえ歴史的には行われていたとしても、条文や通知、運用基準の中に言葉として残されていなければ、後の時代には「そんな業務は認められていない」と扱われてしまうのです。
あん摩マッサージ指圧が「揉むだけ」の技術だと誤解されてきた背景にも、この問題があります。
「書かれていない職能」は弱くなる
あはき法は、あん摩マッサージ指圧の内容を細かく定義していません。一方で、理学療法士法では、運動療法や基本動作能力の回復といった内容が具体的に示されています。
そのため現場では、「具体的に書かれている理学療法士の方が正しい」「書かれていないあん摩マッサージ指圧では、歩行や運動に関わってはいけないのではないか」という受け止め方が生まれます。
つまり、法律が禁止していなくても、明文化されていないだけで、現場では否定的に扱われてしまうのです。制度の世界では、沈黙は中立ではありません。沈黙は、しばしば否定として運用されます。
現場は条文ではなく「運用」で動く
実際に現場で判断するのは、法律学者ではありません。保険者、審査機関、ケアマネジャー、医師、施設職員などです。
多くの場合、彼らは歴史的経緯や職能論を細かく検討するのではなく、「制度上どこに書いてあるのか」「通知に明記されているのか」「請求上どう扱うのか」で判断します。
その結果、あん摩マッサージ指圧師が起立動作、立位保持、移乗動作、歩行誘導などを行っていても、「それはマッサージではないのではないか」「リハビリではないのか」「PTの仕事ではないのか」と言われてしまうのです。
明文化されていない業務は、後から否定される
さらに問題なのは、明文化されていない業務は、後から否定されやすいということです。
最初は問題なく認められていたとしても、ある時点で保険者や審査側の見解が変われば、「それはあん摩の範囲外です」と言われる可能性があります。
返戻、不支給、指導、監査という形で、後出し的に否定される危険が残り続けるのです。
制度の世界では、職能は「実際にできるかどうか」だけでは守られません。「制度上どう書かれているか」によって守られます。
書かれている職能は強く、書かれていない職能は弱い。この差が、時間とともに大きな力の差になります。
歩行はPT、マッサージは揉むだけという誤解
その典型が、「歩行=理学療法士」「マッサージ=揉むだけ」という現代的な誤解です。
本来、あん摩マッサージ指圧は、筋肉や関節、疼痛、動作、生活機能に関わる総合的な手技であり、歴史的にも機能訓練や運動的関わりと切り離されたものではありませんでした。
しかし、その領域があん摩マッサージ指圧側の職能として明確に言語化されなかったため、後の制度運用の中で見えにくくなってしまいました。
そして、見えにくくなった職能は、やがて「存在しなかったもの」として扱われます。
これは職域の生存に関わる問題である
これは単なる技術論ではありません。あん摩マッサージ指圧は、視覚障害者の重要な職域でもあります。
その職能が「揉むだけ」に狭められていけば、高度な身体機能への関与や、生活動作の維持改善に関わる領域から排除され、低付加価値の職種として固定されてしまう危険があります。
つまり、これは「歩行をしてよいかどうか」という小さな話ではありません。職能の生存に関わる問題です。
明文化とは、本来の職能を制度に残すこと
明文化とは、新しい権利を無理に増やすことではありません。本来持っていた領域を、制度の中から消されないように言葉として固定することです。
あん摩マッサージ指圧が本来、筋・関節・疼痛・動作・歩行を含む身体機能に関わる専門的手技であるなら、そのことを制度上も明確に示す必要があります。
そうしなければ、歴史的には存在した職能であっても、運用の中で少しずつ削られ、最後には「そんなものは最初からなかった」と扱われてしまいます。
だからこそ、明文化が必要なのです。
明文化しない職能は、いずれ存在しなかったことにされる。
あん摩マッサージ指圧を「揉むだけ」に閉じ込めないためには、本来の職能を言葉にし、制度の中に残す必要があります。
厚労省通知案:解釈明確化
あん摩マッサージ指圧師は、その施術目的の範囲において、筋緊張の緩和、関節可動域の維持改善、疼痛の軽減等に加え、起立動作、立位保持、移乗動作及び歩行に関する動作の誘導・支援その他の身体機能の維持改善を目的とした運動的関与を行うことができる。
あはき法 追記案
第○条
あん摩マッサージ指圧とは、人体に対する手技により、血行の改善、筋緊張の調整、疼痛の軽減及び関節機能の維持改善を図るとともに、起立、立位保持、移乗及び歩行その他の日常生活動作に関する身体機能の維持改善を目的として行う一切の施術をいう。
前項の施術は、理学療法士及び作業療法士法に基づく理学療法士の業務を排除するものではなく、医師の診療の補助として行われる理学療法とは区別される。




